オーケストラ・レポート Orchestra Report
ローマ・聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団 2012年3月 (S.N様)
N様からのご依頼は、パリに続いて2回目でした。今回は初めて頂いた、ローマのサンタチェチーリア・ホールのレポートです。私もまだ足を踏み入れたことの無いホールなのですが、最近アントニオ・パッパーノが振っていることもあり、人気が高くなってきています。
ローマの Auditorium Parco della Musicaで3月17日に開催されたローマ・サンタチェチーリア管弦楽団の演奏会。予約サイトでのチケット入手を試みたものの、なぜか途中でエラーが発生し、先に進めなかったので、以前にもお世話になった溝口さんにおすがりすることに…。さすがはプロ。当方がイメージしていた通りの2階席をしっかりと確保していただきました。
Auditorium Parco della Musicaは1つの野外劇場と大中小3つのホールを有する近代的な巨大施設。敷地に入るとすぐ正面に見える不思議な形の構造物は中ホール。今回の演奏会に使われたSanta Cecilia ホールは正面に向かって左側に位置しており、収容人数は約2800人。ホールの中に入るとまず空間の大きさに圧倒された。客席はワインヤード型の配置で、椅子の赤い色が暖かな色の内壁によく合う。ステージの上方にはベルリン・フィルハーモニーホールと同じような反響板が設置してあった。お客さんは 7~8割の入りであったと思う。
さて、曲はブルックナーの交響曲第8番。指揮は同団音楽監督のアントニオ・パッパーノ。指揮者が颯爽と登場するも続く客席のおしゃべり・・・(苦笑)。見切り発進のように思えた1楽章冒頭、低弦が深い音で重々しい主題を奏すると一瞬で会場が静まりかえった。緊張感が張り詰める音楽の中に、名手たちが美しいカンタービレをつなぐ。トランペットとホルンのffが鳴りわたった後静かに曲が閉じると、すっかり音楽に引き込まれていた客席からはフーっと弛緩の息が漏れた。
2楽章。ホルンが作り出すハーモニーの中でトランペットとティンパニが躍動し、それに木管群も絡んでいく。繰り返される有機的なやり取りが上機嫌な会話を聞いているようで心が躍った。3楽章は打って変わって静謐なアダージョ。出だしの重心の低い弦楽器の和音から内省的な雰囲気が漂う。じっくりと丹念にドラマが描かれてゆき、ホルンとワーグナーチューバが弦楽器群、クラリネットと共に比類なく美しいアンサンブルを奏で、内省的な楽想が昇華するように曲が締めくくられた。4楽章。冒頭から金管群による輝かしい音色が響き渡り、会場を魅了する。締めくくりにふさわしく、随所に重厚な弦楽アンサンブルや金管群の華々しいファンファーレがちりばめられるが、最後までまったくぶれない鉄壁のアンサンブル。有無を言わさぬ圧倒的な説得力。脱帽であった。
終演後はブラボーの嵐とともに、静かに祈る姿も見受けられた。3楽章の最後にも同じく手を組む姿が見られた。ブルックナーの8番を純粋な音楽として味わう他に、神を意識して聞く人が存在することは、この交響曲がいかに深い懐や神秘性を有しているかを物語っており、至高の名曲と言われることに納得。
ローマ・サンタチェチーリア管弦楽団は、イタリア独自の音色というよりも、インターナショナルな響きを持つと感じた。パッパーノの指揮下、各楽器の動きは明快に整理され、これにイタリアならではのあふれる歌心と輝かしさが加わり、曲線美際立つ色彩豊かな立体図形を連想させた。指揮をするパッパーノの背中からも豊かな音楽が強く発せられ、これに聴衆が呼応して会場全体が一体化するような雰囲気を作り出していたことも素晴らしい体験であった。パッパーノとローマ・サンタチェチーリア管弦楽団は幸福な関係を築いていると聞いていたが、ローマ市民もまた、我町のこのコンビを、我町の素晴らしいホールで聴くことに強い誇りを感じているのではないだろうか。このコンビはやはり間違いなくイタリアで聞き得る最高のものの1つであると強く感じた。
この演奏会のチケットを入手してくださった溝口さんに感謝です。
N様、再びムジーク・ライゼンをご利用いただき、ありがとうございました。最近人気の高い、聖チェチーリア管を詳しくレポート頂き、ありがとうございます。イタリアのオーケストラは数が少ないのですが、皆様も是非ローマに足をお運びの際は、行かれてみてはいかがでしょうか?